「事業主貸」「事業主借」使用事例
【事例1】・・・事業主は事業で使用するボールペン1,000円を購入したが、現金の精算を行わなかった。
<仕訳>
事務用品費 1,000円 / 事業主借 1,000円
【事例2】・・・事業主の生活費として200,000円を事業用の現金から、事業主に支払った。
ご存じのように、個人事業主にその事業から給与を支払っても経費として認められていません。
しかし、事業主にも生活をしていますから、事業用の現金や預金から生活に必要な金額を引き出して生活費に充てています。
<仕訳>
事業主貸 200,000円 / 現金 200,000円
【事例3】・・・決算にあたり、電話代のうちから60,000円と、水道高熱費代から96,000円を事業主の生活費分として処理する。
支払った度に事業分と生活費分を区分して経理するのが理想です(各月の損益がより正確に計算できるため)が、この例では、決算時にまとめて1年分を計算する方法をとっています。
よって、期中は支払った際に全額を通信費や水道光熱費に計上しておき、期末に生活費相当額を各勘定科目から控除すると同時に事業主貸勘定に振替えています。
<仕訳>
事業主貸 156,000円 / 通信費 60,000円
/ 水道高熱費 96,000円
【事例4】・・・決算にあたり、自動車の減価償却費100,000円を計上する際、生活に使用している割合10%相当額10,000円を生活分として処理する。
自動車は1年間分の100,000円分(100%)の価値が減ってゆくと考えます。
しかし90%分が事業の経費であり、残り10%分は生活分であり、経費にすることはできませんので、「事業主貸」とします。
<仕訳>
減価償却費 90,000円 / 車輌運搬具 100,000円
事業主貸 10,000円 /
【事例5】・・・事業用の車両1,500,000円を購入する際、古い事業用の車輌を50,000円(減価償却の残高10,000円)で下取に出し、差額1,450,000円を現金で支払った。
<仕訳>
車輌運搬具 1,500,000円 / 現金 1,450,000円
/ 事業主借 50,000円
事業主貸 10,000円 / 車輌運搬具 10,000円
所得税法では事業用車輌の売却は譲渡所得(総合)とされているため、確定申告時に譲渡収入 50,000円、必要経費10,000円、差引40,000円の利益として申告します。・・・その年の譲渡所得がこれだけであれば、50万円の特別控除があるため、結果として課税されません。・・・ただし、消費税の計算上はこの譲渡収入50,000円を課税売上に加算する必要があります。
10,000円は売却時の下取に出した車輌の帳簿上の残存価格であり、上記のように仕訳をして、帳簿上の価格をゼロにする必要があります。一方でこの残存価格10,000円は、譲渡所得の取得価格になりますので、事業所得以外の所得に移したという意味で、「事業主貸」にします。同じく下取代金の50,000円も、事業所得以外の収入金額であるため「事業主借」にします。
【事例6】・・・写真業を営んでおり、得意先から150,000円の報酬に対し、源泉税10%相当額15,000円を差引かれ、135,000円を現金で領収した。
<仕訳>
現金 135,000円 / 売上 150,000円
事業主貸 15,000円 /
私の職業である税理士もそうですが、職業によっては、その対価から源泉所得税を差引かれるものがあります。・・・(所得税法204条)
この差引かれた源泉所得税は、確定申告の際に年間の所得税から先払いの税金として差引くことになっています。・・・給与所得者も同じですね。
この源泉所得税15,000円 は、事業所得の経費ではありませんので「事業主貸」で処理します。
【現金出納帳への記入の工夫】
(摘要) (入金) (出金)
売上 150,000円 ・・・・勘定科目「売上」
〃 源泉税 15,000円 ・・・・勘定科目「事業主貸」
※差額135,000円が現金の増加となります。このようにすると1行1科目となり次のように簡単な仕訳で済みます。
従業員給与の源泉税や社会保険料の時にも、応用できて(振替伝票を作成しないで済む分)便利です。
<仕訳>
現金 150,000円 / 売上 150,000円
事業主貸 15,000円 / 現金 15,000円
この例では、売上はあくまで150,000円であり、差額を領収することになります。そして差引かれた源泉税は売上先に預けている金額(売上先は「預り金」勘定で管理し、原則支払日の翌月10日に税務署に納付することになります。)であり、経費とはなりません。
確定申告の際に税額控除として差引かれる金額になります。
事業所得の経費として処理することはできませんので「事業主貸」として処理することになります。
私の場合は、生活費とは区分して集計したいと考え、期中は「仮払所得税」という勘定を設定(資産)して管理し、期末に「事業主貸」勘定に振替えています。良かったら参考にしてください。
【期末における事業主貸、事業主借、当期利益の元入金への振替え】
※確定申告に作成する決算書の下の左側(借方)には「事業主貸」が、右側(貸方)には「事業主借」、「元入金」、「青色申告特別控除前の所得金額」が記入されていますが、翌期の決算書の右側(貸方)の「1月1日期首」には「元入金」の欄しかありません。
この「元入金」には前期の「事業主貸」、「事業主借」、「元入金」、「青色申告特別控除前の所得金額」の4つの差引金額を記入します。
・・・「事業主貸」、「事業主借」の差額と、前期の利益である「青色申告特別控除前の所得金額」は、前々期から繰越された「元入金」と合わせて、当期の元入金となるのです。
・・・ここで65万円までの青色申告特別控除後ではないのかとの疑問があると思いますが、青色申告特別控除額は仕訳をせず、申告の際に差引くことがでくる性格のものですから、会計ソフトで作成される損益計算書や貸借対照表には影響しないものです。
確定申告で提出する青色決算書には、仕訳で作成される損益計算書の当期利益(「青色申告特別控除前の所得金額」)から青色申告特別控除額を差引く欄が用意されているために混乱するのだと思います。
【事例 事業主貸勘定と事業主借勘定の振替】
・・・事業主貸の残高3,500,000円と事業主借の残高1,500,000円を元入金に振替えるとともに、当期の利益(青色申告特別控除前の所得金額)2,500,000円を元入金に振替えます。
期首の元入金が仮に1,000,000円 だとすれば、下記の仕訳(黒字の事例の場合)をすることにより、期末(翌期首)の元入れ金の残高は1,500,000円 となります。これが翌年の元入金として繰越されます。
なお、私が使用したほとんどの会計ソフトでは、下記の仕訳が自動的に実行され(翌期更新処理の際)、通常、仕訳が表示されませんが、会計ソフト内部では下記の仕訳処理がされているいと推測されます。
したがいまして、手書きで作成する際には下記の仕訳が必要となります。
<仕訳>
事業主借 1,500,000円 / 事業主貸 3,500,000円
元入金 2,000,000円 /
当期利益 2,500,000円 / 元入金 2,500,000円 ・・・黒字の場合
元入金 2,500,000円 / 当期利益 2,500,000円 ・・・赤字の場合
※なお、上記の仕訳により元入金に繰り入れるため、元入金の残高は1,500,000円となりますが、税務署に提出する青色決算書の4ページの貸借対照表には振替える前の金額(元入金1,000,000円=期首元入金と同額を記入(前期における上記の仕訳をした後の元入金の残高)、事業主貸3,500,000円、事業主借1,500,000円、青色申告特別控除前の所得金額2,500,000円)を記入する必要があります。
(2011/04/13)
(改定2011/06/15)
(事例5追加2011/08/18)
(引出金勘定と事業主勘定の解説追加2011/09/16)
(事業主勘定を使う意味について追記 2012/01/20)
(事業主勘定を使う意味について追記 2012/02/16)
(税務署の青色決算書の貸借対照表の記入方法について追記 2012/02/21)
(事例6追加 2012/08/06)
(【事例6】に現金出納帳への記入例を追加 2012/08/16)